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対談:寺田啓佐氏×中西研二「調和に満ちた微生物の世界はワンネスそのもの」

330年続く老舗の「寺田本家」。由緒ある蔵元に婿入りした寺田さんに与えられた数々の試練。追い詰められた末、発酵場であるがままに生きる小さな生き物・微生物たちに、人としての本来の生き方を教えられる。
その微生物たちの世界に、人間がこれから目指すべき世界があるとお話される、その魅力的な生き物とは――。

調和に満ちた微生物の世界はワンネスそのもの

寺田啓佐氏×中西研二

寺田啓佐(てらだ・けいすけ)●1948年、千葉県生まれ。自然酒造元『寺田本家』23代目当主。1974年、300年続く老舗の造り酒屋『寺田本家』に婿入りする。1985年、経営破綻と病気を機に、自然酒造りに転向。自然に学び、原点に帰った酒造りによる「五人娘」を製造販売する。その後、発芽玄米酒「むすひ」や、どぶろくの元祖「醍醐のしずく」など、健康に配慮したユニークな酒を、次々と商品化し、話題を呼んでいる。酒造業のかたわら、教育や食、環境といった生命にかかわる問題をテーマに、地域貢献に努め、地元の教育委員長や学校給食運営の会長などを歴任する。蔵見学や蔵フェスタ、講演活動で、問題解決の鍵と確信する「発酵」の素晴らしさを発信し続けている。
http://www.teradahonke.co.jp/

中西研二(なかにし・けんじ)●1948年東京生まれ。NPO法人『JOYヒーリングの会』理事長。有限会社いやしの村東京代表取締役。ヒーラー。ワンネスディクシャインストラクター。新聞記者、セールスマンなどさまざまな職業を遍歴の後、1993年に夢の中でヒーリングを伝授され、以来15年間で18万人を超える人々を癒し続けている。また、2004年9月にワンネスユニバーシティでワンネスディクシャという手法を学び、以来、この手法を通して、多くの人々がワンネスの体験を得る手助けをしている。著書に『そのまんまでオッケー!』『悟りってなあに?』『あなたはわたし わたしはあなた』(共にVOICE刊)がある。

自分らしく、楽しく、仲良く生きている微生物たち

中西 寺田さんの蔵元で造られるお酒はおいしいだけでなく、楽しく、いい気分にさせてくれると評判ですよね。しかも悪酔いしない。試行錯誤の末現在の形にいきついたとのことですが、お酒造りにかかわったのはいつくらいからなんですか?

寺田 「寺田本家」は女系家族なんですよ。代々女の人が跡を継いで、そこにお婿さんがくるという蔵元でして。そういうところに婿入りして自分で23代目になります。

中西 ずいぶん由緒ある蔵元ですね。だけど、最初はお酒の素人だったわけですね?

寺田 しかもお酒を飲めない体質なんです(笑)。もともと営業マンだった私は現代的な商売方法に覚えがあったので同じようにやろうと思ったんですね。お酒のことは知らなくても商品を売るということでは同じだ、と。お酒というのは本来、米と米麹(こめこうじ)だけで造るものなのですが、戦時中米不足のために量を増やす目的でアルコールを添加するようになったのです。

それが戦後も、利益を多く出すためにずっと続いているわけです。私がここにきた当時は全国的に日本酒離れがすすんできていて、私もこの方法を使ってとにかく利益をあげなければと思ったんです。日本酒本来の味よりも経営的な数字のほうに目がいっていました。

そんな状況でがむしゃらに働いて、気がつくと10年経つ頃にはずいぶん借金が増えて「もうやめるほかないな」という状態だったんです。当時はうまくいかない状況をいろんなところに当たって、仕事も家庭もすさんでいました。そんな時に直腸が腐る病気になってしまったんですよ。

中西 そのことがきっかけで、微生物が発酵する世界に気づいたのですね。

寺田 そうです。あるとき、発酵していると腐らないということに気づいたんですよ。ぬか漬けもぬか床に入れておくと野菜が腐らないんですが、お酒も発酵しているから腐らないんですね。自分のお腹が腐っちゃったってことはお腹が発酵していなかったってことなんですよ。

発酵するということは、発酵に必要な微生物だけいればできると思いますよね。でも違うんです。大腸菌などの有害物質を生産すると思われる微生物とも仲良くすることで発酵が進むのです。これらを取り除いちゃったら発酵しないんです。

お酒造りに関与する微生物というのは酵母菌や乳酸菌や麹菌だっていいますけど、本当はもっともっと名の付いていないような微生物がたくさん関与してお酒を造ってくれているんです。これらが一匹一匹、自分の役割を果たした時に非常に生命力のあるお酒ができるのです。

たくさんの微生物を取り込めば取り込むほど、受け入れる力が増しましてね、増すことによって生命力があがってくるみたいですね。そうやって微生物っていうのは自分らしく楽しく仲良く生きているんです。

自分のお腹が腐っちゃったということは、自分はありのままに生きていなかったことに気づいたんです。自分の生き方が肉体だけでなく人間関係や夫婦関係、周りのことすべてを腐敗させてしまっていたと。

中西 そこからが「寺田本家」の再スタートだったわけですね。

寺田 そうなんです。お酒造りは何かと聞かれれば、結局作り手の意識が重要なんです。自分自身を発酵させていこうと決心したらもう今までの酒造りを続けることはできませんでした。利益に見合わなくても昔ながらの多くの菌が共存している酒蔵でお酒を造りたい。そしてうちのお酒を飲んだ人が楽しく元気になってくれたらいい…。そう思いながら手探りで取り組みました。

寺田啓佐著「発酵道」(河出書房新社)

寺田啓佐著「発酵道」
(河出書房新社)

お酒自体は技術、いいお米、いいお水、それらが必要条件だと思われますが、実は発酵場がちゃんとできていれば勝手に発酵するものなんです。発酵場には菌の存在が重要です。ですからふつうの蔵では外からの菌はご法度なんですよ。でもうちの蔵の場合は女性も男性も子どももみんな出入りして菌を運んでもらっています。自然界の菌、それから蔵にいる菌が一緒になってお酒を造ると考えています。

そして本当においしいお酒は作り手の意識が反映されます。発酵のことを「おみき」と言います。「みき」つまり「三つのき」=「うれしき」「楽しき」「ありがたき」が重なって「おみき」と言ったそうなんですが、つらいことを「うれしき」ことに変え、つまらないことを「楽しき」ことに変え、当たり前のことを「ありがたき」ことに変えちゃう。

酒造りは本当に意識とか言葉によってものすごいお酒が生まれるんですよ。「愛」という意識が、待ちかまえているたくさんの菌によってお酒を造ります。だから中西さんがお酒造りをされたら、間違いなく美お味いしいお酒ができますよ(笑)。

中西 野草酵母づくりがブームですが、あれも野草を発酵させるのに手でこねるんですね。そのことで自分が持っている常在菌が加わり、その人に必要な酵母ができる。お酒も同じですね。

寺田 うちもそういう観点でお酒造りをしています。手のひらから癒しの力、癒しの光も出ると言いますからね。これからは見えない世界が表舞台に出てきてわれわれに影響を与える時代が来ますね。もう何年もかからないでしょう。

 

中心をつかみ、内側を空っぽにするという常岡先生の教え

中西 寺田さんが心機一転酒造りに取り組もうと決意された時にお会いし影響を受けたのが哲学者・常岡一郎氏ですね?

寺田 常岡先生は「中心をつかむことが人類生存の尊い道」と説かれていて、例えば曲芸師はバランスを取りながら綱渡りをしていますが、足元ばかり見ていたら中心が分からなくなってしまうんですね。「足元ばかり見ないで中心をしっかり把握し、周りの人に心配り、気配りをしなさい。周りの人を明るくしなさい。そのことに力を注ぎなさい」とおっしゃったのです。

さらにご自分の肺結核の体験から、いい空気を取り入れようとするのではなく、徹底的に吐き出すことを教えていただきました。吐き出して吐き出して内側を空っぽにすれば、外から新しいものがどんどん入るでしょう。手放したら新しいものが入ってくるということですね。最初に父に連れていかれてお会いしたときはまだ25歳でしたから、言っていることがよく理解できませんでした。ですが10年後、なにもかもが腐ってしまったときに、父の導きのように再び会いに行ったら「あなたは人のお役に立っていますか」と問われたのです。そこで初めて気づいたのです。それまで利益を上げることばかり考えていたのですが、お酒本来の「百薬の長」と言われるような人の健康によいお酒を造ろうと。

 

争わなくても生かされている微生物の世界に教えてもらう

中西 先ほどの中心をつかんで全体のバランスを取るという話はよく分かります。五重塔の建築原理と同じでしょう。一本の太い柱で中心を取ることで立っているという典型的な構造ですね。現代の建築技術では真似ができないそうですが、柱の中心をどこにおいて、全体のバランスをどう取るか、ということが当時の人には分かっていたのですね。

発酵場ではマイナスに作用するような菌も必要ということですが、私もそのことはずっと感じていることなのです。たとえば「ついている」という言葉があります。では「ついていない」人はダメな人間なのかということですね。私自身の人生をみたときに「ついていない時期」のほうがずっと長かったんです。でも「ついていない時期」に見たこと、思ったこと、感じたことがあったから人に対して優しくできたし、自分が苦労しているときに、人の優しさ、温かさ、ありがたさが分かるものですね。

人生の中では体験することが重要で無駄なことなんて何もないと実感しています。なのに勝ち組、負け組などの優劣を表す言葉の中で育った今の子どもたちの中には自殺者も多いし、無差別殺人に走ったりする風潮が生まれています。そのような中でこそ寺田さんの「みんないらっしゃい、みんなでうれしき、楽しき、ありがたきでおみきをつくりましょう」という考え方はすごくうれしい話ですね。とても「宇宙の理」にかなっていますからね。

寺田 今の時代、逆に「宇宙の理」にそわない生き方を「よし」としてしまったのではないですか。「宇宙の理」とは、「愛」でできていると思うんですね。その「愛」とかけ離れた生き方・考え方では一時うまくいったとしても、いつしか腐敗しだすと思いますよ。

中西 「愛」という言葉ですが、「あい」とは話し合い、分かち合いの「あい」でもあり、間(あいだ)を取り持つもの、つまり接着剤でもあると思うのですね。だからたとえ一人勝ちしても、一人だけでは社会が成り立
ちませんからね。

寺田 勝ち続けるということは、自然界ではあり得ませんよね。微生物の世界を観察していると脳を持っているのではないかと思えるほどワンネスの世界なんですよ。人間は脳を使えば使うほど自分のエゴに走り欲望と感情に巻き込まれてしまう。その原因を追求していくと過去の記憶にあるようなのです。

ところが微生物はまさにあるがまま、目の前の今をどう心地良く生きていくかなのです。だから人間も過去にとらわれず、常岡先生の言うように手放して頭を空っぽにし、中心を取っていけばいいのです。でもそれも怖くてなかなか手放せない。自分はたまたま飛び降りるしかないというところまで追い詰められて、そして飛び降りたら「な〜んだ、こんな世界があったのか」と気づいたのです。

人間は本来、自然と調和した愛の世界に生かされているのに、余計な知識が争いを引き起こしているのではないですか。微生物の世界を見ていますと、争わなくても生かされるということがよく分かります。それこそが、まさに自然界の姿なのですね。

中西 本当にそうですね。今日はお忙しいところ、貴重なお話をありがとうございました。

参考リンク:寺田本家

「いやしの村だより」2008年9月号掲載

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